ケーデンスとは
コード進行は音が並んでいるだけですが、聴く人はそこに区切りを感じています。「ここで一区切りついた」「まだ続きそう」という感覚です。この区切り方を決めるのがケーデンス(終止形)で、日本語では終止形、ドイツ語由来でカデンツとも呼ばれます。
文章でいえば句読点にあたります。「。」で言い切るのか、「、」で次へ渡すのか。実際に効いているのは、4小節や8小節のまとまりの最後の2つのコードです。ここが違うだけで、同じメロディでも「終わった」「まだ続く」が入れ替わります。
なぜⅤ→Ⅰで終わった感じがするのか
終止形の話は、結局この1点に集約されます。理由は2つあります。
導音が主音を引っ張る
メジャースケールの第7音(キーCならB)は、主音Cのすぐ半音下にあります。半音は音階の中でいちばん狭い距離で、狭いほど「くっつきたい」力が強く働きます。この音を導音と呼びます。名前のとおり、主音へ導く音です。
Ⅴ(キーCなら G・B・D)には、この B が含まれています。
三和音で見ると、B を含むのは Ⅲm・Ⅴ・Ⅶ° の3つです。ただしドミナントとして働くのはⅤ と Ⅶ° の2つだけ。Ⅲm も導音を持っているのに仲間外れなのは、もう一つの緊張の素である F を持っていないからです。
Ⅴ7(G・B・D・F)と Ⅶ°(B・D・F)は B と F という三全音を抱えていますが、Ⅲm(E・G・B)にはそれがありません。導音はあっても、引き裂かれるような緊張が無いわけです。加えてⅠと構成音を2つ共有している(E・G)ので、Ⅲm はトニックの代理として扱われます。
根音が完全5度下がる
もう一つは低音の動きです。G→C は、ルートが完全5度下がる(=完全4度上がる)動きです。これはコード進行の中でいちばん強い引力を持つ根音の動きで、強進行と呼ばれます。
さらにⅤを Ⅴ7 にすると、ここに三全音の緊張が加わります。強進行と三全音の解決がそろった Ⅴ7→Ⅰ が、いわゆるドミナントモーションです。その仕組みはダイアトニックコードの記事で構成音まで追っています。
4つの終止形
正格終止(Ⅴ→Ⅰ)
いちばん強い着地です。文章の「。」にあたります。曲の終わり、大きなセクションの終わりに置きます。
日本の和声学では、Ⅴ→Ⅰのうち両方のコードが基本形(ルートが最低音)で、いちばん上の声部が主音で終わるものだけを特に完全終止と呼び、条件を外れるものを不完全終止と区別します。ポップスではそこまで細かく分けず、Ⅴ→Ⅰをまとめて正格終止と呼ぶのが普通です。
半終止(→Ⅴ)
Ⅴで止めてしまう形です。「、」にあたります。Ⅴは緊張したままのコードなので、そこで止めると解決していない状態が宙に浮いたまま残ります。だから聴き手は続きを待ちます。
Aメロの終わり、Bメロへの渡し、間奏前など、「まだ終わらせたくない」場所で使います。
変終止(Ⅳ→Ⅰ)
讃美歌の最後の「アーメン」がこの形なので、アーメン終止とも呼ばれます。柔らかく着地します。
なぜ柔らかいのか。理由は2つとも、正格終止の裏返しです。
- 導音が無い。Ⅳ(F・A・C)にもⅠ(C・E・G)にも B が含まれません。引っ張る音が居ないので、緊張が解けるというより、広がったものが自然に戻ってくる感じになります
- 根音が逆方向へ動く。F→C はルートが完全5度上がる動きで、強進行とはちょうど反対向きです。押し出す力ではなく、引き戻す動きです
ロック、ゴスペル、賛美歌系のバラードの締めでよく使われます。
偽終止(Ⅴ→Ⅵm)
着地すると見せかけて外す形です。Ⅴまで来たら普通はⅠへ行くところを、Ⅵmへ逸らします。
面白いのは、完全に裏切られた感じはしないところです。理由は構成音にあります。
Ⅵm はⅠと構成音を2つ共有しています。つまり半分は着地しているんです。ただ、いちばん下の音が C から A に変わることで、着地したはずの明るさに翳りが差します。「終わったようで終わっていない」というあの感じは、この half-and-half から来ています。
最後のサビの手前でもう一周させたいとき、曲を終わらせたくないときに効きます。
ツーファイブワンは正格終止の助走
Ⅴの手前にⅡmを置くと、ルートが D→G→C と完全4度ずつ上がり続ける形になります。強進行が2回続くので、着地に向かう推進力が一段強まります。
ジャズの基本単位で、ポップスでも曲の終わりやサビ前によく差し込まれます。詳しくはツーファイブワンのページで音を鳴らしながら確かめられます。
マイナーキーの終止形
ここに、マイナーキー特有の問題があります。ナチュラルマイナーのⅤはマイナーコードです。キーAmなら Em(E・G・B)で、導音であるはずの第7音が G♮ のまま。主音Aの半音下(G♯)ではありません。
聴くと分かりますが、着地はするものの押し込む力が弱く、ふわっと戻る感じになります。そこで実際の曲では、第7音を半音上げて Ⅴ を強引にメジャー(E7)にします。
こちらは正格終止の力がはっきり出ます。この差し替えを最初からスケールに組み込んだものがハーモニックマイナーです。Chordrift のモード選択にハーモニックマイナーがあるのは、この「マイナーキーのⅤ問題」に対応するためです。
使い分けのまとめ
| 終止形 | 形 | 感じ | 置く場所 |
|---|---|---|---|
| 正格終止 | Ⅴ→Ⅰ | 言い切る(。) | 曲・セクションの終わり |
| 半終止 | →Ⅴ | 続く(、) | Aメロの終わり、間奏前 |
| 変終止 | Ⅳ→Ⅰ | 柔らかく着地 | バラードの締め、アウトロ |
| 偽終止 | Ⅴ→Ⅵm | 外す | もう一周させたいとき |
進行を作っていて「なんとなく終わらない」「切りたいのに切れない」と感じたら、最後の2コードだけをこの表と見比べてみてください。だいたいそこが原因です。