セカンダリードミナントとは
キーが決まると、使えるコードはダイアトニックコードの7つに決まります。その中だけで進行を組むとまとまりは良いのですが、続けているうちに平坦に感じてきます。
そこでキーの外の音をほんの少しだけ持ち込んで、推進力を足すのがセカンダリードミナントです。やり方はこうです。
キーの中の別のコードを、一時的に「仮の主役(仮のⅠ)」とみなす。そして、そこへ向かうⅤ7を借りてくる。
Ⅴ7→Ⅰ がいちばん強い着地になることはケーデンスの記事で見たとおりです。セカンダリードミナントは、その強力な引力を、キーの中のどのコードに対しても発動できるようにする装置です。
実例で見る
キーCで、Ⅵm(Am)へ気持ちよく着地させたいとします。手順は3つです。
- Am を「仮のⅠ」とみなす。するとそこは一時的にAマイナーのキー
- A から見たⅤは E。ドミナント7thにすると E7
- その E7 を、本来のキーCの進行の中に持ち込む
E7 の構成音は E・G♯・B・D です。
ここで注目すべきは G♯ です。キーCのダイアトニックには存在しない、キー外の音です。キーCの本来のⅢmは Em(E・G・B)ですから、真ん中の音を半音上げてメジャーにし、さらに7thのDを足した形です。
この G♯ が何をしているかというと、行き先である A の半音下に陣取っているんです。つまり Am から見たときの導音です。
半音は音階の中でいちばん狭い距離なので、引力がいちばん強く働きます。たった1音キーの外に出るだけで、Amへ吸い寄せられる力が生まれるわけです。
進行に差し込んでみる
もとの進行(すべてダイアトニック)。
1小節目の後半に E7 を挟み込みます。小節数は変えずに、Ⅰの後ろ半分を明け渡すだけです。
同じ長さ、同じコードの並びなのに、Ⅵm への入り方に推進力が出ます。これがセカンダリードミナントの効き方です。
5種類ある
ダイアトニックコード7つのうち、仮のⅠになれるのは5つです。それぞれに対するセカンダリードミナントを並べると、こうなります。
| 表記 | 別の書き方 | キーCでは | 解決先 |
|---|---|---|---|
| Ⅴ7/Ⅱm | Ⅵ7 | A7 | Dm |
| Ⅴ7/Ⅲm | Ⅶ7 | B7 | Em |
| Ⅴ7/Ⅳ | Ⅰ7 | C7 | F |
| Ⅴ7/Ⅴ | Ⅱ7 | D7 | G |
| Ⅴ7/Ⅵm | Ⅲ7 | E7 | Am |
全12キー分の一覧です。
| キー | Ⅴ7/Ⅱm | Ⅴ7/Ⅲm | Ⅴ7/Ⅳ | Ⅴ7/Ⅴ | Ⅴ7/Ⅵm |
|---|---|---|---|---|---|
| C | A7 | B7 | C7 | D7 | E7 |
| C♯/D♭ | A♯7 | C7 | C♯7 | D♯7 | E♯7 |
| D | B7 | C♯7 | D7 | E7 | F♯7 |
| E♭/D♯ | C7 | D7 | E♭7 | F7 | G7 |
| E | C♯7 | D♯7 | E7 | F♯7 | G♯7 |
| F | D7 | E7 | F7 | G7 | A7 |
| F♯/G♭ | D♯7 | E♯7 | F♯7 | G♯7 | A♯7 |
| G | E7 | F♯7 | G7 | A7 | B7 |
| A♭/G♯ | F7 | G7 | A♭7 | B♭7 | C7 |
| A | F♯7 | G♯7 | A7 | B7 | C♯7 |
| B♭/A♯ | G7 | A7 | B♭7 | C7 | D7 |
| B | G♯7 | A♯7 | B7 | C♯7 | D♯7 |
音で確かめるなら、こちらを再生してみてください。5つを順に鳴らします。
書き方が2つあるのはなぜか
同じコードに Ⅴ7/Ⅵm と Ⅲ7 の2通りの書き方があります。見ているものが違うだけです。
- Ⅴ7/Ⅵm … 「Ⅵmに対するⅤ7」という役割で書く。どこへ解決するかが一目で分かる
- Ⅲ7 … キーの主音から数えて何度上かという位置で書く。譜面やコード譜で短く済む
Chordrift の候補表示では Ⅴ7/Ⅱm の形を使っています。解決先が書いてあるほうが、「次にどこへ行けばいいか」が迷わないためです。
Ⅶ°だけ仲間外れなのはなぜか
Ⅰ自身を除くと候補は6つあるはずですが、Ⅶ°(キーCならBdim)には作りません。理由は、ディミニッシュコードの中に減5度という不協和音程が入っているからです。
メジャーコードもマイナーコードも、ルートと5度の間が7半音(完全5度)で、これが「ここが家です」と言い切るための骨格になっています。
ディミニッシュはこの5度が半音狭く、Bdim なら B と F、つまりⅤ7の緊張の正体だった三全音そのものを抱え込んでいます。和音自体が落ち着かないので、仮の主役にすら、なれないわけです。
言い換えると、ディミニッシュコードを主和音とするキーが存在しないということです。仮のⅠになれるのは、メジャーかマイナーの三和音だけです。
落ち着けないという性質は、裏を返せば通り道に向いているということでもあります。ディミニッシュを着地点ではなく経過点として使うやり方は、ディミニッシュコードの記事にまとめています。
丸サ進行のⅢ7
実際の曲でよく見かけるのが、丸サ進行(ⅣM7-Ⅲ7-Ⅵm7-Ⅰ7)です。2つめの Ⅲ7 がまさに Ⅴ7/Ⅵm で、次の Ⅵm7 へ強く引き寄せています。
さらにこの進行は、最後の Ⅰ7 もⅤ7/Ⅳ です。先頭の ⅣM7 へ戻るための助走として働いていて、だから途切れずに何周でも回れます。1つの進行に2つのセカンダリードミナントが仕込まれている、という点でも教科書的な例です。
使うときの注意
- 解決先へちゃんと進む。 E7 を置いたら Am へ行く。行き先を裏切ると、キー外の音だけが宙に浮いて「間違えた」ように聴こえます
- 使いすぎない。 キー外の音が増えるほど、どのキーの曲なのかという感覚が薄れます。1曲に1〜2箇所、ここぞという場所に置くのがいちばん効きます
- 手前にⅡm7を足すとさらに強くなる。 リレイテッドⅡ(関連ツーファイブ)と呼ばれるやり方です。このとき解決先がマイナーなら Ⅱm7(♭5) を使うのが通例で、さきほどの E7→Am なら Bm7♭5 → E7 → Am になります。解決先がメジャーなら Ⅱm7 のままです。丸サ進行のページに派生形として実例があります