フリジアンとは
マイナースケールの一種です。ドリアンと同じく、比べる相手はナチュラルマイナーです。
ナチュラルマイナー(エオリアン) と フリジアン の比較 — 違うのは 1音だけ
| ナチュラルマイナー(エオリアン) | C1 | D2 | E♭♭3 | F4 | G5 | A♭♭6 | B♭♭7 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| フリジアン | C1 | D♭♭2 | E♭♭3 | F4 | G5 | A♭♭6 | B♭♭7 |
違いは2度が半音下がる1音だけです。キーCなら D が D♭ になります。モードの中でも指折りに暗い響きですが、暗さの正体は「音が4つも下がっているから」ではありません。主音のすぐ半音上に音があるという、この1点です。
♭2 ── 上から押さえつけてくる半音
メジャースケールの導音は、主音の半音下にあって主音へ上がろうとする音でした。フリジアンの♭2は、その反対に主音の半音上にあります。
半音は音階の中でいちばん狭い距離なので、引力はやはり強く働きます。ただし向きが逆で、下へ落ちようとする力になります。導音が「下から持ち上げてくれる」音だとすれば、♭2は「上から押さえつけてくる」音です。
このため、フリジアンで♭2を鳴らすと解放ではなく圧迫が生まれます。スペイン風・中東風と形容される独特の緊張はここから来ています。
♭2がⅡをメジャーコードに変える
コードで見ると、♭2の影響はⅡに出ます。ナチュラルマイナーの2度の上に建つのはⅱ°(Ddim)という使いにくいディミニッシュでしたが、フリジアンでは明るいメジャーコードになります。
暗いスケールの中に、主音の半音上のメジャーコードが1つだけ立っている ──この不釣り合いがフリジアンの顔です。ⅰ と Ⅱ を交互に鳴らすだけで、それとわかる響きになります。
ダイアトニックコード
| キー | Ⅰm | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳm | Ⅴ° | Ⅵ | Ⅶm |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| C | Cm | D♭ | E♭ | Fm | Gdim | A♭ | B♭m |
| C♯/D♭ | C♯m | D | E | F♯m | G♯dim | A | Bm |
| D | Dm | E♭ | F | Gm | Adim | B♭ | Cm |
| E♭/D♯ | E♭m | E | G♭ | A♭m | B♭dim | B | D♭m |
| E | Em | F | G | Am | Bdim | C | Dm |
| F | Fm | G♭ | A♭ | B♭m | Cdim | D♭ | E♭m |
| F♯/G♭ | F♯m | G | A | Bm | C♯dim | D | Em |
| G | Gm | A♭ | B♭ | Cm | Ddim | E♭ | Fm |
| A♭/G♯ | A♭m | A | B | D♭m | E♭dim | E | G♭m |
| A | Am | B♭ | C | Dm | Edim | F | Gm |
| B♭/A♯ | B♭m | B | D♭ | E♭m | Fdim | G♭ | A♭m |
| B | Bm | C | D | Em | F♯dim | G | Am |
表の綴りは、鳴らしたときの音を優先して読みやすい形に寄せています。理論どおりに書くとA♭フリジアンのⅡは B♭♭(ダブルフラット)ですが、実際に鳴る音は A なので A と表記しています。
7thを足した形と、特徴音♭2(キーCなら D♭)を含むかどうかの一覧です。
| 度数 | 3和音 | 7th | ♭2を含む |
|---|---|---|---|
| ⅰ | Cm | Cm7 | |
| Ⅱ | D♭ | D♭M7 | ● |
| Ⅲ | E♭ | E♭7 | ●(7thのみ) |
| ⅳ | Fm | Fm7 | |
| ⅴ° | Gdim | Gm7♭5 | ● |
| Ⅵ | A♭ | A♭M7 | |
| ⅶ | B♭m | B♭m7 | ● |
定番の進行
ⅰ-Ⅱ(フリジアン2コード)
半音上のメジャーコードとの往復。これだけで成立します。
ⅳ-Ⅲ-Ⅱ-Ⅰ(アンダルシア終止)
フラメンコの背骨とも言える進行で、スペイン終止とも呼ばれます。主音から見て4番目のコードから、1つずつ下へ降りて主音に着地します。
キーCなら Fm → E♭ → D♭ → C。最後の D♭→C が、さきほど見た「上から押さえつけてくる半音」がそのまま解決する動きです。ギター1本で弾いても、これだけでスペインの響きになります。
注意したいのは、最後の主和音がマイナーではなくメジャーになるところまでがこの終止の形だという点です。
C メジャーの3度である E は、Cフリジアン(C・D♭・E♭・F・G・A♭・B♭)には無い音で、ハーモニックマイナーから借りてきています。暗く降りてきて最後に光が差す、という落差がフラメンコらしさの正体です。
この主和音がメジャーになったスケールはフリジアン・ドミナントと呼ばれ、ハーモニックマイナーの5番目の音から弾いたものと同じです。Chordrift のモード選択には入っていませんが、フリジアンを選んだうえで進行にⅠ(メジャーの主和音)を混ぜれば同じ響きが出せます。
ⅳ-Ⅲ-Ⅱ-ⅰ(借りものを使わない版)
最後をマイナーのままにすると、フリジアンの7音だけで組めます。
キーCなら Fm → E♭ → D♭ → Cm。光が差す瞬間が無いぶん暗いままで、フラメンコよりはメタルやゲーム音楽の不穏な場面に向く響きです。
フリジアンらしさが消えるとき
♭2を含むコードを使わない
ナチュラルマイナーとの違いは♭2の1音だけです。Ⅱ・ⅴ°・ⅶ・Ⅲ7 を一度も鳴らさなければ、聴き手にはただのマイナーキーに聴こえます。Ⅱを必ず入れるのが最短の解決策です。
主音をはっきり示さない
フリジアンは主音の半音上に音があるぶん、中心がぐらつきやすいモードです。ⅰ をあまり鳴らさずに Ⅲ や Ⅵ を多用すると、耳が勝手に別の音を中心と解釈して、平行調のメジャーやマイナーに聴こえてしまいます。ベースで主音を鳴らし続ける、ⅰ に頻繁に戻る、といった補強が要ります。
どんな音楽で使われるか
フラメンコをはじめとするスペインの伝統音楽、中東・北アフリカの音楽、そしてヘヴィメタルです。
メタルでフリジアンが多用されるのは、低音弦のパワーコードで♭2を鳴らすと最短で不穏になるからです。開放弦とその半音上を交互に刻むリフは、そのままフリジアンのⅰ-Ⅱです。ゲーム音楽で敵地や終盤の場面に使われるのも同じ理由です。
Chordrift で試す
- モード選択でフリジアンを選ぶ
- ⅰ と Ⅱ の2コードでループを作る
- スケール表示をONにして「♭2」の位置を確かめる
♭2は主音のすぐ隣です。指板で主音を見つけたら、その1フレット上が特徴音になります。主音と交互に弾くだけでフリジアンの気配が出るので、いちばん体感しやすいモードかもしれません。

水色がⅡ(D♭)の押さえ方。主音のすぐ隣に建つコードだと指板の間隔からも分かる