モードとは
Cメジャースケールは C・D・E・F・G・A・B の7音です。この7音はそのままに、どの音を「中心」と感じるかだけを変えると、まったく別の響きになります。この考え方がモード(旋法)です。
たとえば同じ白鍵だけを使っても、Cを中心に据えれば明るいメジャー、Aを中心に据えれば暗いマイナーに聴こえます。中心が変わると、その音から見た他の音との距離関係が変わるからです。
7音それぞれを中心にできるので、モードは7つあります。
| モード | 中心にする音(Cメジャーの白鍵で) | 性格 |
|---|---|---|
| アイオニアン | C | 明るい(=メジャースケール) |
| ドリアン | D | 暗いが少し洒落た |
| フリジアン | E | 暗く、緊張感が強い |
| リディアン | F | 明るく、浮遊感がある |
| ミクソリディアン | G | 明るいが少し土臭い |
| エオリアン | A | 暗い(=ナチュラルマイナー) |
| ロクリアン | B | 極度に不安定 |
「白鍵をずらす」で理解してはいけない理由
上の表は成り立ちの説明としては正しいのですが、実際に曲で使うときにはまったく役に立ちません。ここが最初の落とし穴です。
Dドリアンを「Cメジャーの白鍵をDから弾いたもの」と覚えると、弾いている音がCメジャーとまったく同じなので、ドリアンらしさが何も出ません。実際に鳴らしてみると、Dを強く意識しないかぎりただのCメジャーに聴こえます。
役に立つのはこちらの捉え方です。
同じ主音のメジャースケールと比べて、どの音が変わっているか。
Dドリアンなら「Dメジャースケールの3度と7度が半音下がったもの」。この見方なら、弾いている最中に「どこを変えれば良いか」が分かります。以下の聴き比べも、すべて主音をそろえて並べてあります。
メジャーとの差分で聴き比べる
以下、明るい側から暗い側へ順に並べます。キーは自由に変えられるので、自分が弾きやすいキーで確かめてみてください。
リディアン — 4度が上がる
メジャー(アイオニアン) と リディアン の比較 — 違うのは 1音だけ
| メジャー(アイオニアン) | C1 | D2 | E3 | F4 | G5 | A6 | B7 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| リディアン | C1 | D2 | E3 | F♯♯4 | G5 | A6 | B7 |
メジャースケールとの違いは4度が半音上がる1音だけです。それだけで、地に足のついた明るさが、浮き上がるような明るさに変わります。
この4度(キーCなら F♯)が特徴音です。メジャースケールの4度(F)は主音Cへ戻ろうとする重さを持っていますが、半音上げると主音への引力が消え、どこまでも上っていくような感覚になります。映画音楽やファンタジー系のBGMで「非日常の明るさ」を出したいときの定番です。
→ リディアンの詳しい使い方(Ⅱメジャーの扱いと、♯4が消える瞬間)
ミクソリディアン — 7度が下がる
メジャー(アイオニアン) と ミクソリディアン の比較 — 違うのは 1音だけ
| メジャー(アイオニアン) | C1 | D2 | E3 | F4 | G5 | A6 | B7 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ミクソリディアン | C1 | D2 | E3 | F4 | G5 | A6 | B♭♭7 |
違いは7度が半音下がる1音だけ。導音(主音の半音下の音)が無くなるのが要点です。
ケーデンスで見たとおり、導音は主音へ強く引き寄せられる音でした。それが無いので、メジャースケールほどきっちり着地しません。かわりに、同じところをぐるぐる回り続けるような推進力が出ます。ロック、ブルース、ファンクで多用されるのはこのためです。
主音の上に3和音を積むとメジャーコードのままですが、7thを足すとⅠ7(ドミナント7th)になります。12小節ブルースがⅠ7から始まって解決しないまま進み続けるのは、まさにこの響きです。
→ ミクソリディアンの詳しい使い方(Ⅰ7とⅦの2つの主役)
ドリアン — 3度と7度が下がる
メジャー(アイオニアン) と ドリアン の比較 — 違うのは 2音だけ
| メジャー(アイオニアン) | C1 | D2 | E3 | F4 | G5 | A6 | B7 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ドリアン | C1 | D2 | E♭♭3 | F4 | G5 | A6 | B♭♭7 |
ここから暗い側に入ります。3度が下がるとマイナーの響きになります。
ドリアンで重要なのは、ナチュラルマイナーとの違いのほうです。
ナチュラルマイナー(エオリアン) と ドリアン の比較 — 違うのは 1音だけ
| ナチュラルマイナー(エオリアン) | C1 | D2 | E♭♭3 | F4 | G5 | A♭♭6 | B♭♭7 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ドリアン | C1 | D2 | E♭♭3 | F4 | G5 | A6 | B♭♭7 |
違いは6度の1音だけ。ナチュラルマイナーの♭6が、ドリアンでは半音上がってナチュラルな6度になります。この1音が「暗いけれど、じめっとしていない」独特の質感を作ります。マイナーの暗さは保ったまま、♭6由来の重さだけが抜ける感じです。
ジャズ、ファンク、ネオソウルで頻繁に使われます。マイナーキーの曲で「暗いけど洒落た感じにしたい」ときの第一候補です。
→ ドリアンの詳しい使い方(Ⅳがメジャーになる仕組み)
フリジアン — 2度・3度・6度・7度が下がる
メジャー(アイオニアン) と フリジアン の比較 — 違うのは 4音だけ
| メジャー(アイオニアン) | C1 | D2 | E3 | F4 | G5 | A6 | B7 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| フリジアン | C1 | D♭♭2 | E♭♭3 | F4 | G5 | A♭♭6 | B♭♭7 |
4つも下がるので、モードの中でもかなり暗い部類です。ただし性格を決めているのは♭2の1音です。主音のすぐ半音上に音があるという状態は、他のモードにはありません(ロクリアンを除く)。
この半音がスペイン風・中東風と形容される独特の緊張を生みます。フラメンコ、メタル、ゲーム音楽の「敵の本拠地」みたいな場面でよく聴く響きです。
→ フリジアンの詳しい使い方(アンダルシア終止とフリジアン・ドミナント)
ハーモニックマイナー — 3度と6度が下がる
メジャー(アイオニアン) と ハーモニックマイナー の比較 — 違うのは 2音だけ
| メジャー(アイオニアン) | C1 | D2 | E3 | F4 | G5 | A6 | B7 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ハーモニックマイナー | C1 | D2 | E♭♭3 | F4 | G5 | A♭♭6 | B7 |
Chordrift が対応しているモードの中で、これだけは教会旋法ではありません。ナチュラルマイナーの第7音を半音上げて、人工的に作られたスケールです。
理由はケーデンスで見たとおりで、ナチュラルマイナーのⅤはマイナーコードになってしまい、主音へ引き戻す力が弱いからです。第7音を上げて導音を作ることで、マイナーキーでも Ⅴ7→Ⅰm の強い着地が使えるようになります。
ナチュラルマイナー(エオリアン) と ハーモニックマイナー の比較 — 違うのは 1音だけ
| ナチュラルマイナー(エオリアン) | C1 | D2 | E♭♭3 | F4 | G5 | A♭♭6 | B♭♭7 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ハーモニックマイナー | C1 | D2 | E♭♭3 | F4 | G5 | A♭♭6 | B7 |
ナチュラルマイナーとの違いは7度の1音だけ。ただしこの変更によって、♭6 と ナチュラル7 のあいだが3半音空きます。隣り合う音がこれだけ離れるのは7音スケールでは異例で、ここを通ると独特のエキゾチックな響きになります。クラシック、ネオクラシカルメタル、中東風・スペイン風の曲で耳にする音です。
→ ハーモニックマイナーの詳しい使い方(Ⅴ7とⅶ°7、増2度の正体)
アイオニアンとエオリアンについて
この2つは、名前こそモードですが中身はメジャースケールとナチュラルマイナーそのものです。
- アイオニアン = メジャースケール
- エオリアン = ナチュラルマイナー
同じものを2通りの名前で呼んでいるだけなので、新しく覚えることはありません。ではなぜ別名があるのかというと、モードの一員として並べたときに位置づけがはっきりするからです。
上のリディアン〜フリジアンの比較を見ると、明るい順に リディアン → アイオニアン → ミクソリディアン → ドリアン →エオリアン → フリジアン と並びます。この列の中に置くことで、「メジャーは明るさの中では2番目」「マイナーは暗さの中では2番目」という相対的な位置が見えてきます。
Chordrift のモード選択で「メジャー」「ナチュラルマイナー」という名前を使っているのは、こちらの呼び方のほうが一般に通じるためです。
ロクリアンを実用しない理由
7つ目のロクリアンだけは、Chordrift のモード選択に入れていません。理由は主音の上に積むコードにあります。
ロクリアンの主音に3和音を積むとディミニッシュコードになります。メジャーコードもマイナーコードも、主音と5度のあいだが完全5度(7半音)で、これが「ここが家です」と言い切るための骨格になっていました。ロクリアンにはその骨格がありません。
つまり帰ってくる場所そのものが不安定なので、曲全体を通して使うのが極めて難しいのです。実際の曲では、ジャズのハーフディミニッシュ(Ⅶm7♭5)が一瞬顔を出す場面などで部分的に使われる程度で、「この曲は全編ロクリアン」と言える曲はほとんど存在しません。
Chordrift はループ再生で「主音に戻ってくる」体験を軸にしているので、その前提と噛み合わないモードは入れていません。
どう使い始めるか
いきなりモードで曲を作ろうとすると難しいので、次の順序をおすすめします。
- まず1音だけ変える。 メジャーキーの曲の7度を下げればミクソリディアン、4度を上げればリディアンです。1音変えるだけで景色が変わるのが体感できます
- 主音を鳴らし続けながら弾く。 モードは主音を強く意識させないと成立しません。Chordrift でそのモードのダイアトニックコードをループさせながら、スケール表示を見て弾いてみてください
- 特徴音を狙って弾く。 リディアンなら♯4、ドリアンなら6度、フリジアンなら♭2。その音を通るとモードらしさが立ちます
Chordrift の指板・鍵盤の「スケール表示」をONにすると、選んだモードで使える音が度数つきで見えます。コードを鳴らしながら特徴音の位置を確かめるのが、一番早い覚え方だと思います。

水色に塗られているのが、いま選んでいるコードの押さえ方。特徴音がスケールのどこにあるかが一目で分かる