ペンタトニックスケールとは

5つの音でできたスケールです。ペンタ(penta)はギリシャ語で5、トニック(tonic)は音を指します。ふだん使うメジャースケールは7音なので、そこから2音を抜いた形になります。

メジャー(アイオニアン)メジャーペンタトニック の比較

メジャー(アイオニアン)
C1
D2
E3
F4
G5
A6
B7
メジャーペンタトニック
C1
D2
E3
G5
A6

抜けるのは4度と7度です。キーCなら F と B が消えて、C・D・E・G・A の5音が残ります。これをメジャーペンタトニックと呼びます。

アドリブを始めるとき、まずペンタトニックを覚えろと言われます。理由は、この5音なら伴奏と決定的にぶつからないからです。ただし「なぜぶつからないのか」まで説明されることは少なく、指板の形だけ丸暗記して終わりがちです。抜いた2音が何をしていた音なのかを見ると、5音の安全性の正体が分かります。

なぜ4度と7度を抜くのか

Cメジャースケールの中で、隣り合う音が半音になっている場所は2箇所しかありません。

CDEFGABC全音全音半音全音全音全音半音
メジャースケール。半音は E–F と B–C の2箇所だけ。どちらにも F か B が関わっている

E–F と B–C です。どちらの半音にも、F か B のどちらかが必ず含まれています。つまりこの2音を抜けば、スケールから半音がまるごと消えます。

CDEGAC全音全音短3度全音短3度
メジャーペンタトニック。全音と短3度だけになり、半音がひとつも無い

半音が無いということは、5音のうちどの2音を同時に鳴らしても、あの独特のぶつかりが起きないということです。伴奏の上に好きな音を重ねても濁らないのは、これが理由です。

抜いた2音は三全音のペアでもある

F と B にはもうひとつの顔があります。この2音は互いに三全音(トライトーン)の関係にあります。

FB三全音
F と B。メジャースケールの7音の中で、三全音になる組み合わせはこの1組だけ

ケーデンスの記事で見たとおり、三全音は最も不安定な音程で、Ⅴ7が主音へ強く戻りたがる原動力になっています。曲を終わらせるときには頼りになりますが、アドリブの最中に不用意に鳴らすと「解決したがっているのに解決しない」宙ぶらりんな響きが残ります。4度と7度を抜くと、この緊張の種そのものが消えます。

それぞれの音が単体でも扱いにくい

2音は別々の理由でも扱いが難しい音です。

  • 4度(F)はアボイドノート。 Ⅰ(C・E・G)の上で F を伸ばすと、コードの3rdである E と半音でぶつかります。テンションコードの記事で11thが特別扱いされているのと同じ現象で、ペンタトニックはこの音を最初から持っていません
  • 7度(B)は導音。 主音Cの半音下にあり、常にCへ引っ張られます。引力が強いぶん、そこで止まると「まだ途中」という感じが残ります

残った5音は、どこで止めても一応まとまって聴こえます。ペンタトニックが初心者向けとされるのは、単に音数が少ないからではなく、扱いを間違えやすい音を先に取り除いてあるからです。

マイナーペンタトニック ── 同じ5音を別の場所から

マイナー側にも同じ発想のスケールがあります。ナチュラルマイナーから2音を抜いたマイナーペンタトニックです。

ナチュラルマイナー(エオリアン)マイナーペンタトニック の比較

ナチュラルマイナー(エオリアン)
C1
D2
E♭♭3
F4
G5
A♭♭6
B♭♭7
マイナーペンタトニック
C1
E♭♭3
F4
G5
B♭♭7

抜けるのは2度と♭6度です。キーCマイナーなら D と A♭ が消えて、C・E♭・F・G・B♭ の5音になります。

抜く度数の番号がメジャーのときと違うので、別の操作をしているように見えます。ところが平行調(CメジャーとAマイナーのように、同じ7音を共有する調のペア)で並べると、抜いている音は物理的に同じです。

Aナチュラルマイナー(A・B・C・D・E・F・G)から2度と♭6度を抜くと、消えるのは B と F ── Cメジャーペンタトニックで抜いたのと同じ2音です。

ACDEGA短3度全音全音短3度全音
Aマイナーペンタトニック。使う鍵盤は Cメジャーペンタトニックと同一で、始まる場所だけが違う

Cメジャーペンタトニックと Aマイナーペンタトニックは、同じ5音を主音を変えて眺めたものです。ギターで言えば、押さえる場所は一切変えずに、どの音を「帰る場所」と感じるかだけを切り替えていることになります。1つの形を覚えれば2つのスケールとして使えるのは、この関係のおかげです。

半音が無いという性質も共通です。並びは短3度・全音・全音・短3度・全音で、メジャーペンタトニックの並びを途中から読み始めただけの形になっています。

メジャーキーでマイナーペンタを弾く

ロックやブルースでは、メジャーキーの曲にマイナーペンタトニックを重ねる弾き方が定番です。理屈の上では噛み合っていません。同じ主音で並べると、こうなります。

メジャー(アイオニアン)マイナーペンタトニック の比較

メジャー(アイオニアン)
C1
D2
E3
F4
G5
A6
B7
マイナーペンタトニック
C1
E♭♭3
F4
G5
B♭♭7

共通しているのは1度・4度・5度の3音だけです。メジャースケールの2度・3度・6度・7度は使われず、代わりに ♭3と♭7 という外の音が2つ入ってきます。

とくに ♭3 は、伴奏のコードが鳴らしている長3度と半音でぶつかります。キーCで C7(C・E・G・B♭)が鳴っている上に E♭ を重ねると、E と E♭ が同時に響くわけです。

これを濁りではなく味として扱うのがブルーノートの考え方です。ブルースの歌唱やギターは、長3度と短3度のちょうど中間あたりの音程を使う伝統を持っています。

鍵盤の平均律にはその中間が存在しないので、鍵盤楽器は ♭3 と 3 を同時に鳴らして代用し、ギターは ♭3 からチョーキングで持ち上げて中間を狙います。楽譜どおりの ♭3 を長く伸ばすのではなく、そこから動く音として扱うのがコツで、伸ばしっぱなしにすると単に音を外したように聴こえます。

なお、♭7 が入るという点はミクソリディアンと共通していますが、別物です。ミクソリディアンは3度が長3度のままで、♭3 を持ちません。この弾き方の要は ♭3 のほうにあります。

実際に試すなら12小節ブルースが最短です。同じ12小節が繰り返されるので、マイナーペンタトニック1つを重ね続けるだけでフレーズの試行錯誤に集中できます。

ブルーススケール

マイナーペンタトニックに ♭5 を1音足したものをブルーススケールと呼びます。

ACDEGAE♭短3度全音半音半音短3度全音
Aのブルーススケール。4度と5度のあいだに ♭5 が挟まり、D・E♭・E が半音ずつ隣り合う

足した ♭5 は、4度から5度へ移動する途中の通過音として使われます。半音を持たないことがペンタトニックの安全性の理由でしたから、そこへあえて半音を作りにいく音です。伸ばすと不安定に響くので、通り過ぎる音として速く使うのが原則になります。

ヨナ抜き音階 ── 日本語の呼び方

日本の音楽では、メジャーペンタトニックのことをヨナ抜き音階と呼びます。「ドレミファソラシ」を1から数えて、4番目(ヨ)のファと7番目(ナ)のシを抜く、という意味です。抜く音も結果の5音も、メジャーペンタトニックとまったく同じものを指しています。

坂本九「上を向いて歩こう」は、このヨナ抜き音階で書かれた曲としてよく例に挙げられます。童謡や唱歌にもこの音階の曲が多く、日本人にとって馴染み深い響きだと言われるのは、ファとシが無い5音の音階が耳に染みついているためです。

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似た名前でニロ抜き音階という呼び方もあります。こちらは2番目(ニ)と6番目(ロ)を抜くもので、長音階から抜くと「ド・ミ・ファ・ソ・シ」という並びになり、沖縄音楽で聴く琉球音階と同じ形になります。

短音階から2番目と6番目を抜けばマイナーペンタトニックです。ただし呼び方の範囲は文献によって揺れがあるので、名前で議論するより実際の5音を並べて確かめるほうが確実です。

5音音階は日本だけのものではありません。レナード・バーンスタインは1973年のハーバード大学での連続講義で、スコットランド、中国、アフリカ、アメリカ先住民、南米など、交流の無かった地域の音楽に同じ5音音階が現れることを挙げています。

ギターの5つのポジション

ギターではペンタトニックを5つの形に分けて覚えるのが一般的です。5つの形が指板の上で数珠つなぎになっていて、全部つなげるとネック全体を覆います。1つの形だけで弾いていると音域が数フレットのあいだに閉じ込められるので、隣の形へ移れるようになると一気に自由になります。

たとえばAマイナーペンタトニックで最初に教わるのは、6弦5フレットのAから始まる形です。6弦は5フレットと8フレット、5弦は5フレットと7フレット……と各弦2音ずつ拾っていくと、5〜8フレットに収まる箱ができます。ルートが6弦にあるので、同じ形を2フレット上げればBマイナーペンタです。

Aマイナーペンタトニックの5〜8フレットの箱

6弦・1弦は5フレットがルートA。各弦2音ずつ、5〜8フレットの範囲にきれいに収まる。

ここで注意が要ります。5つの形の番号の振り方は、教材によって食い違います。 6弦にルートがある形を「ポジション1」と呼ぶ流儀が多い一方、CAGEDシステムに合わせてEシェイプ・Dシェイプのように形の名前で呼ぶ流儀もあり、そもそも数える起点が違います。

番号を覚えて別の教材に移ると話が噛み合わなくなるので、番号ではなく、指板のどこにルートが来る形かで覚えておくのが安全です。

ペンタトニックが7音のスケールより形として覚えやすいのも、半音が無いおかげです。半音がひとつも無いので、各弦に置かれる音がきれいに2つずつに揃い、形が対称的になります。

ペンタトニックらしさが消えるとき

5音だけを弾いていれば必ず良く聴こえるかというと、そうではありません。よくある行き詰まりは2つです。

抜いたはずの音を通ってしまう

安全性は「4度と7度が無い」ことで成立しています。フレーズをつなぐつもりで F や B を通ると、その瞬間だけ7音のスケールに戻ります。

悪いことではありませんが、ぶつかりが起きるのは常にその音の上なので、意図せず外れて聴こえたときは、まず抜いたはずの2音を通っていないかを疑うのが早道です(コードが変わったのに同じペンタを弾き続けている、という別の原因もあります)。

5音だけで単調になる

音数が少ないぶん、フレーズが似通いやすくなります。抜け出す方法は主に3つあります。

  • メジャーペンタとマイナーペンタを行き来する。 ブルースやロックでは、同じキーの中で両方を混ぜるのが定番のやり方です
  • 同じ5音のまま、帰る場所を変える。 Cメジャーペンタと Aマイナーペンタは同じ5音でしたから、伸ばす音とフレーズの終わり方を変えるだけで色が変わります
  • 抜いた音を意図して足す。 通過音として速く使えば濁らず、ブルーススケールの ♭5 と同じ働きをします

Chordrift で試す

  1. キーとモードを選び、下の楽器パネルでスケール表示をONにする
  2. 表示の種類を「メジャーペンタ」または「マイナーペンタ」に切り替える
  3. 指板の点を押すと、その音だけを鳴らして確かめられる

スケール表示をONにすると、ギターはネック全体の図に切り替わります。ダイアトニックの7音から5音に減ると、覚えるべき形が指板の上に浮かび上がってくるのが見えるはずです。

ペンタトニックの種類は、選んでいるモードとは独立して選びます。マイナー系のモードを選ぶとマイナーペンタ、メジャー系ならメジャーペンタが既定になりますが、メジャーキーのままマイナーペンタを選ぶこともできます。上で見たブルース/ロックの定番がまさにその組み合わせなので、選択を禁じない作りにしてあります。

キーをCメジャーのままスケール表示だけマイナーペンタに切り替え、指板に出た ♭3 の点を押してみると、伴奏の長3度とぶつかる音がどれなのかが耳で分かります。

ペンタトニックのスケール表示:ネック全体に5音だけが並ぶ

ダイアトニックの7音から2音減ると、覚えるべき形が指板上に浮かび上がってくる