転調とは

転調は、曲の途中でキーそのものを変えてしまうことです。

借用和音セカンダリードミナントもキーの外の音を持ち込む方法でしたが、あれは「一瞬だけよそから借りて、すぐ元へ戻る」もの。転調はそうではありません。

借用和音は、隣の家から調味料を借りてすぐ返しにいく。転調は、荷物をまとめて隣の家へ引っ越す。

引っ越したあとは、そこが新しい「家」になります。ダイアトニックコードの顔ぶれも、安定して聴こえる着地点(主和音)も、まるごと入れ替わる。だから転調が決まると、曲の景色が一段変わったように聴こえます。

移調とはどう違うか

よく混同されるのが移調(トランスポーズ)です。違いは単純で、曲全体か、曲の途中かです。

何をするか
移調 曲全体を別のキーに移す。曲の構造は何も変わらない 高くて歌えないのでキーを2つ下げる/カポを付ける
転調 曲の途中でキーが変わる。そこから景色が変わる 最後のサビだけ半音上がる

Chordrift で言えば、プレイヤーやトップ画面のキーを選び直すのが移調、セクションごとに違うキーを設定するのが転調にあたります。

行きやすい調・行きにくい調

どの調へでも自由に引っ越せますが、共通する音が多い調ほどなめらかに繋がります。キーCから見ると、代表的な行き先はこの4つです。

行き先 呼び名 キーCからの例 7音のうち共通する音
短3度下 平行調 Aマイナー 7音(ナチュラルマイナーなら全部同じ)
同じ主音 同主調 Cマイナー 4音
完全5度上 属調 Gメジャー 6音
完全4度上 下属調 Fメジャー 6音

これらをまとめて近親調と呼びます。属調(G)はキーCと比べてFがF♯になるだけ、下属調(F)はBがB♭になるだけ。1音しか違わないので、聴き手は「変わった」と感じつつも違和感なく付いてこられます。

逆に、キーCからF♯メジャーへ飛ぶと、共通する音はBとF(F♯メジャーの綴りではE♯)の2つだけになります。落差が大きいぶん準備が要ります。方法④が効くのはそういう場面です。

ここから5つの方法を見ていきます。前半の2つ(①②)はどこへ行くかの話、後半の3つ(③④⑤)はどうやって渡るかの話です。軸が違うので、「平行調へ、ピボットコードを使って渡る」のように組み合わせて使えます。

方法①:平行調へ移る

平行調は、構成音が同じ調です。キーCとキーAマイナー(ナチュラルマイナー)は、どちらも「白鍵だけ」でできています。使える音が変わらないので、引っ越しというより家の中で重心を移すような、いちばん自然な転調になります。

C メジャー
A マイナー

前半がCメジャー、後半がAマイナーです。

ただし、音が同じということは放っておくと転調したと気づいてもらえないということでもあります。前半のⅥm(Am)と後半のⅰ(Am)は、鳴っている音は同じコード。これを「新しい主役」として聴かせるには、Aマイナーの着地を作ってやる必要があります。

その役目が3小節目のⅤ7(E7)です。E7の構成音はE・G♯・B・Dで、G♯はAナチュラルマイナーのスケールには無い音(ハーモニックマイナー由来)。つまり、ここだけ白鍵の外へ出ます。

この音が鳴ると耳は「Amへ帰りたい」と強く感じ、その解決先であるAmが新しい主役として据わります。マイナーキーへの着地にⅤ7が使われるのはこのためです。構成音が同じ調どうしでも、着地を作る1音だけは外から持ってくるわけです。

方法②:同主調へ移る

同主調は、主音はそのままでメジャーとマイナーだけを入れ替えた調です。キーCならCマイナー。

C メジャー
C マイナー

後半の3小節目に出てくるA♭とB♭は、借用和音の記事で♭Ⅵ・♭Ⅶと呼んでいたコードと同じものです。

呼び方が違うのはどの調から見ているかの違いで、キーCメジャーから見れば「♭が付いた例外」、キーCマイナーの住人として見ればⅥ・Ⅶというごく普通のダイアトニックコードになります。引っ越したあとは、そこが基準になるわけです。

やっていることは借用和音と同じ材料の出し入れですが、戻ってこないところが違います。借用和音はⅳを1つ挟んですぐⅠへ帰る。同主調転調はそのままマイナーの世界に住み続けます。

主音が動かないので、ベースもメロディの中心音も変わりません。明暗だけがはっきり切り替わるので、AメロとBメロ、あるいはメロからサビへ表情を変えたいときに使われます。

上のプレイヤーは明→暗の向きですが、J-POPでよく聴くのは逆の暗→明で、マイナーで進んできた曲がサビで同じ主音のメジャーになると、一気に視界が開けます。

短3度上への転調は、①と②の合わせ技

サビの頭でいちばんよく使われる転調が、短3度上(キーCならE♭メジャー)への移動です。一見遠そうですが、ここまでの2つを続けて使ったものと考えると仕組みが見えます。

キーC → 同主調のCマイナー(方法②)→ その平行調のE♭メジャー(方法①)。Cマイナーとその平行調E♭メジャーは構成音が同じなので、実質「同主調へ行っただけ」で短3度上のメジャーキーに着地できるわけです。

借用和音の ♭Ⅲ・♭Ⅵ・♭Ⅶ がそのままE♭メジャーのⅠ・Ⅳ・Ⅴになるので、材料もすでに手元にあります。

C メジャー
E♭ メジャー

2小節目のA♭とB♭はキーCの借用和音(♭Ⅵ・♭Ⅶ)ですが、着地したE♭から見ればⅣとⅤ。2つの調のどちらにも属するコードが橋渡しをしている形で、これは次に見る方法③そのものです。

方法③:ピボットコードで橋を架ける

ピボットコードは、2つの調のどちらにも属しているコードのことです。そこを蝶番(ちょうつがい)にして、聴き手に気づかせないまま向こう側へ渡ります。

キーCからキーG(属調)へ渡る場合、両方のダイアトニックコードを並べると、重なっているコードが4つ見つかります。

ダイアトニックコード
キーC C・Dm・Em・F・GAm・Bdim
キーG GAm・Bm・C・D・Em・F♯dim

この中でいちばん使いやすいのがAmです。キーCでは Ⅵm、キーGでは Ⅱm。Ⅱmはツーファイブの入口なので、そのままⅡm→Ⅴ7→Ⅰと繋げばキーGへきれいに着地します。

C メジャー
G メジャー

3小節目のAmが蝶番です。鳴った瞬間はまだキーCのⅥmに聴こえていて、次のD7で「あ、さっきのAmはキーGのⅡmだったのか」と後から分かる。この後出しの感覚が、ピボットコード転調のなめらかさの正体です。

決め手になっているのは4小節目のD7で、構成音はD・F♯・A・C。

DACF♯長3度短3度短3度
D7。F♯はキーCに無い音で、この1音がキーGへの引っ越しを確定させる

F♯はキーCのスケールに存在しません。ここまで白鍵だけで進んできた耳にこの1音が刺さることで、「もうさっきまでの調ではない」とはっきり伝わります。

方法④:行き先のⅤ7で引っ張る

共通するコードが少ない調へ飛ぶときは、橋を架ける代わりに行き先の調のⅤ7を鳴らして強引に引っ張り込みます。

面白いのは、この方法がセカンダリードミナントとまったく同じコードを使うことです。キーCで A7 を鳴らしてみます。

これはA7がDmへ解決するセカンダリードミナント(Ⅴ7/Ⅱm)。キーはCのままです。ところが、同じA7からDmではなく D へ着地するとこうなります。

C メジャー
D メジャー

同じ A7 なのに、後半はキーDに引っ越してしまいました。コードそのものに「転調」と書いてあるわけではなく、その後どうなるかで意味が決まるわけです。

  • A7 → Dm … Ⅴ7/Ⅱm。キーCのまま、Ⅱmを一瞬強調しただけ
  • A7 → D … そのままDが主役として続けば、キーDのⅤ7→Ⅰ。ここから住み替える

ここで効いてくるのが「着地したあと、そこに留まるかどうか」です。着地した瞬間だけではまだ決まりません。A7→Dと鳴っただけなら、そのDがさらにG(キーCのⅤ)へ進む通り道だった、という可能性も残っています。

着地した先で新しい主和音が落ち着いて続いてはじめて、聴き手は「引っ越した」と受け取ります。上のプレイヤーでⅠを2小節伸ばしてあるのはそのためです。

Ⅴ7は行き先を1つに絞り込む力が強いので、近親調でなくても成立します。遠い調へ飛びたいときの基本手段です。

方法⑤:そのまま半音・全音上げる

同じ進行をまるごと上へずらす方法です。J-POPの「ラスサビで一段上がる」の多くがこれで、小室進行のようにループする4小節の進行でよく使われます。

半音上げ。キーCの半音上はC♯メジャーで、コード名にシャープが並んで読みにくくなりますが、譜面では同じ音のD♭メジャーで書くのが普通です。

C メジャー
C♯ メジャー

全音上げ。

C メジャー
D メジャー

橋も架けず、行き先のⅤ7も使わず、いきなり移るやり方を直接転調と呼びます。それでも成立するのは、同じ進行が繰り返されることで「形」が耳に残っていて、高さだけが変わったと認識できるからです。上がった瞬間の高揚感が目的なので、なめらかさを狙う他の方法とは発想が逆と言えます。

実際の曲では、本当に何も挟まず上げるほかに、間にドラムのフィルインや効果音を挟んで一度断ち切る、方法④のⅤ7を1つだけ入れてから上げるというやり方もよく使われます。どれも「上げる」こと自体は変わらず、繋ぎ目の見せ方だけが違います。

ここには少しねじれがあります。上がる幅は半音のほうが小さいのに、調としては半音上げのほうがずっと遠いのです。キーCから見ると、半音上(C♯メジャー)と共通する音は2つしかないのに対して、全音上(Dメジャー)とは5つも共通しています。

そのぶん半音上げは音がまるごと入れ替わって「上がった」とはっきり分かり、全音上げは共通音が多いぶん、あからさまになりすぎずに持ち上がります。どちらも繰り返しの最後、いちばん盛り上げたい場所で使うのが定石です。

下げる向きもあります。 ラスサビの手前の「落ちサビ」でいったんキーを下げておき、ラスサビで元へ戻すと、上げていないのに戻った瞬間が持ち上がって聴こえます。歌う側の負担も増えないので、最高音がすでにぎりぎりの曲で使える逃げ道になります。

なめらかに繋ぐコツ

  • 行き先のⅤ7を1つ挟むだけで、たいていの転調は成立する。 迷ったらこれ。転調先の主和音の完全5度上にドミナント7th(長3度+短7度)を置く。マイナーキーへ行くときは3rdを半音上げること ── Aマイナーなら Em7 ではなく E7(→ 方法①)
  • 共通音を残す。 転調の前後で同じ音が鳴り続けていると、耳は繋がりを感じ取る。ピボットコードはこれを最大化した形
  • ベースを半音で動かす。 ルートが半音でつながると、コードが遠くても違和感が減る。裏コードはこの性質を利用した方法
  • 歌モノは音域に注意。 半音上げただけでも、サビの最高音は確実に1つ上がる。もともとぎりぎりなら、上げるのではなく落ちサビで下げて戻す形を検討する
  • メロディで先に新しい音を出す。 コードより先にメロディが転調先の音を鳴らすと、聴き手は転調を予告として受け取り、繋ぎ目が自然になる
  • 戻ることまで設計する。 ラスサビの転調は上げっぱなしでよいが、AメロやBメロで転調したときは、次に同じ場所が来るまでに元のキーへ戻す必要がある。戻し忘れると1番と2番でキーの違う曲になる。帰り道も、元のキーのⅤ7を鳴らせばよい

Chordrift で試す

Chordrift はセクションごとにキーとモードを持てるので、転調をそのまま形にできます。

  1. 進行を作ったら、セクションの「+」ボタンを押す
  2. メニューから転調先を選ぶ ── 「上へ転調」(半音・全音・短3度・完全4度・完全5度)、「下へ転調」(半音・全音・短3度・長3度)、「調の切替」(平行短調・同主短調)
  3. 新しいセクションに進行を作る。進行は度数で持っているので、前のセクションと同じ形をそのまま置けば「方法⑤」の丸ごと転調になる
  4. トランスポートの全セクション通しで再生して、繋ぎ目を聴く

セクション追加の転調メニュー。「上へ転調」「下へ転調」「調の切替」のグループに分かれ、それぞれの行き先のキーが併記されている

「+」を押すと出る転調メニュー。行き先のキーがその場で確認できる

メジャーキーのときは転調先が ♭Ⅲ・Ⅳ・Ⅴ・♭Ⅵ・♭Ⅶ という度数でも併記されるので、「いまどれくらい遠くへ動いたのか」を度数で確かめられます。

このページのプレイヤーも、転調するものは「Chordrift で開く」を押すと調ごとにセクションが分かれた状態で本体に読み込まれます。