代理コードとは

Ⅰ-Ⅳ-Ⅴ-Ⅰ で作った進行が、素直すぎて物足りない。かといってキーの外の音を持ち込むほどではない。そんなときに使うのが代理コードです。

やることは1つだけです。あるコードを、同じ役割を持つ別のコードへ入れ替えます。進行の骨格はそのままなのに、色だけが変わります。

役割というのは、ダイアトニックコードの記事で見たトニック・サブドミナント・ドミナントの3つのことです。同じグループの中で入れ替えるかぎり、役割の並びは保たれます。

上と下は、どちらもトニック→サブドミナント→ドミナント→トニックの順です。替えたのは前半の2つで、ⅠをⅥmに、ⅣをⅡmに置き換えました。

下は Am - Dm - G - C。循環コードをⅥmから始めた形で、ポップスでもジャズでも頻繁に出てきます。

3度違いの隣どうしは、2音を共有する

なぜ入れ替えても成り立つのか。理由は共有している音の数です。

キーCの7つの三和音を、3度ずつ積み上がる順に並べ替えると輪になります。

輪の並び 構成音 次と共有する音
Ⅵm A・C・E C・E
C・E・G E・G
Ⅲm E・G・B G・B
G・B・D B・D
Ⅶ° B・D・F D・F
Ⅱm D・F・A F・A
F・A・C A・C(一周してⅥmへ戻る)

三和音は3度を2つ積んだものなので、3度ずらすと2音がそのまま残ります。輪の隣どうしが必ず2音を共有するのは、そのためです。

隣から離れると一気に減ります。ⅠとⅣが共有するのは C の1音だけ、ⅠとⅡmにいたっては1音も共有しません。2音を共有する相手は、輪の両隣の2つに限られます。

3つの役割は、輪の上でひと続きになっている

この輪の上に、3つの役割をそのまま重ねられます。

  • トニック … Ⅵm - Ⅰ - Ⅲm
  • ドミナント … Ⅴ - Ⅶ°
  • サブドミナント … Ⅱm - Ⅳ

どれも輪の上でひと続きです。役割そのものは、落ち着くか・外へ広がるか・帰りたがるかという聴こえ方から先に決まったもので、輪から導いたものではありません。並べ替えてみたら3つの弧にきれいに分かれた、という答え合わせにあたります。

ここで1つ注意があります。トニックだけメンバーが3つあるので、両端の Ⅵm と Ⅲm どうしは輪の上で隣ではなく、E の1音しか共有しません。この2つが同じトニックに入るのは、どちらも真ん中のⅠと2音を共有しているからです。

そして輪を3つに区切れば、境目も3つできます。Ⅲm と Ⅴ のあいだ、Ⅶ° と Ⅱm のあいだ、Ⅳ と Ⅵm のあいだの3か所です。

境目に立つ6つのうち、どちらの役割とも読まれるのは Ⅵm と Ⅲm の2つです。Ⅵm はⅣと A・C を共有しているので、Ⅳの代わりにサブドミナントとして置かれることがあります。

Ⅲmが役割の曖昧なコードとして扱われるのも、Ⅴと G・B を共有する側の境目にいるからです。

7つのうち、どちらの境目にも接していないのはⅠだけです。弧の内側にすっぽり収まっている、唯一のコードということになります。

ただし、境目をまたげばいつでも入れ替えられるわけではありません。ⅤをⅢmに替えると、ドミナントの引力は消えます。

理由は2つあります。ひとつは根音の動きで、Ⅴ→Ⅰ は完全5度下がる強進行なのに対し、Ⅲm→Ⅰ は3度しか動きません(→ケーデンス)。

もうひとつは緊張の作り方です。Ⅴは7thを足せば三全音(B と F)ができますが、Ⅲmは7thを足してもⅢm7(E・G・B・D)で、三全音はどこにもできません。

輪の上での距離が同じでも、持っている音の中身が効き方を分けます。

7thにすると、輪の隣どうしが1つのコードに収まる

三和音では「3音のうち2音が同じ」でした。7thコードにすると、輪の隣どうしの関係はもっとはっきりした形で現れます。

CEGB長3度短3度長3度
ⅠM7=CM7(C・E・G・B)。上の3音 E・G・B はⅢm そのもの
ACEG短3度長3度短3度
Ⅵm7=Am7(A・C・E・G)。上の3音 C・E・G はⅠ そのもの

7thコードは三和音の上に3度をもう1つ積んだものなので、いちばん下の音を落とすと3度上の三和音がまるごと残ります。キーの中の7つすべてで成り立ちます。

7thコード 構成音 含んでいる三和音
ⅠM7 C・E・G・B Ⅲm
Ⅱm7 D・F・A・C
Ⅲm7 E・G・B・D
ⅣM7 F・A・C・E Ⅵm
Ⅴ7 G・B・D・F Ⅶ°
Ⅵm7 A・C・E・G
Ⅶm7♭5 B・D・F・A Ⅱm

Ⅴ7の行は、よく言われる「Ⅶ°はⅤ7からルートを抜いた形」そのものです。輪の隣どうしという関係は、後から足した理屈ではなく7thコードの積み方の中に最初から入っています。

ただし、この表がそのまま代理の一覧になるわけではありません。左右が同じ役割どうしなのは4行(ⅠM7とⅢm、Ⅱm7とⅣ、Ⅴ7とⅦ°、Ⅵm7とⅠ)で、素直に置き換えられるのはここです。

残る3行(Ⅲm7とⅤ、ⅣM7とⅥm、Ⅶm7♭5とⅡm)は、ちょうど輪の3つの境目にあたります。役割の名前は別ですが、ⅣM7 の中にⅥmがまるごと入っているように、前の節で見た「Ⅵmはサブドミナント寄りにも使われる」がここにも出ています。

なお、ⅠM7ではなくⅠ6(C・E・G・A)にすると、Ⅵm7と4音すべてが一致します。同じ4音でも、いちばん下で鳴っている音が違えば聞こえ方は変わります。詳しくはsus4・add9・6thの記事で扱っています。

定番の置き換え

Ⅳ → Ⅱm

いちばん使いやすい置き換えです。

Ⅱm(D・F・A)はⅣ(F・A・C)と F・A を共有しているので、上の響きはほとんど変わらず、ベースだけが F から D へ下がります。Ⅱm7 にすればCも残るので、さらにⅣに近い響きになります。

Ⅳ-Ⅴ-Ⅰ のⅣをⅡmに替えると、そのままツーファイブワン(Ⅱm-Ⅴ-Ⅰ)になります。ジャズでいちばん基本とされる形を、サブドミナントを代理に差し替えたものとして読めるわけです。

Ⅰ → Ⅵm

いちばん効果の大きい置き換えです。明るいⅠが、同じトニックのまま翳ります。

元の Ⅰ-Ⅳ-Ⅴ-Ⅰ と聴き比べてみてください。出だしをⅥmにするだけで、曲の入り口の印象がまるごと変わります。逆に、終わりのⅠをⅥmに替えると、着地したようで着地しない形になります。これがケーデンスの記事で扱った偽終止です。

Ⅰ → Ⅲm

Ⅵmより控えめで、翳りかたも浅い置き換えです。

Ⅵmほど落ち込みませんが、Ⅰのルートである C が消えるぶん、着地した感じそのものが薄れます。王道進行(Ⅳ-Ⅴ-Ⅲm-Ⅵm)の3つめのⅢmが、まさにⅤのあとに来るはずだったⅠの代理です。

置き換えても同じにはならない

代理コードは「同じ役割の別の色」であって、同じ音ではありません。置き換えると必ず何かが変わります。

ルートが変わるので、ベースが動きます。 ⅠをⅥmにすればベースは C から A へ、ⅣをⅡmにすれば F から D へ移ります。ベースラインを設計しているときは、ここが狙いどおりかを先に見ます。

メロディとぶつかることがあります。 メロディが主音Cで伸びているところをⅢm(E・G・B)に替えると、CはⅢmの構成音ではないうえ、Ⅲmが持つ B と半音でぶつかります。同じトニックでも、Ⅵm(A・C・E)ならCを含むので問題ありません。

曲を終わらせたい場所では効きません。 代理は「着地したようで、していない」を作る道具でもあります。最後のⅠだけは代理にしない、と決めておくと扱いやすくなります。

キーの外の代理との違い

ここまではすべて、キーの中の7つで完結していました。代理という言葉は、キーの外を使うやり方にも使われます。

  • 裏コード(トライトーン代理)… Ⅴ7を、三全音離れた♭Ⅱ7に置き換える。置き換え先はキーの外
  • 借用和音(モーダルインターチェンジ)… 同主短調からⅳや♭Ⅵを借りる。こちらも置き換え先はキーの外

見分け方は簡単で、置き換えたあとのコードがそのキーのダイアトニックコードかどうかを見ます。この記事で扱った代理はすべて中に収まっているので、キーの手触りは変わりません。キーの外を使う2つは、そのぶん効果も大きい代わりに、使いどころが限られます。

マイナーキーの輪も同じもの

Aナチュラルマイナーで同じ並べ替えをすると、輪は Ⅵ - ⅰ - Ⅲ - ⅴ - Ⅶ - ⅱ° - ⅳ の順になります。ⅰ(Am)はⅢ(C)と C・E を、Ⅵ(F)と A・C を共有します。

平行調のメジャーとまったく同じ7音から作るので、輪そのものが同じものです。CメジャーのⅥmがAマイナーのⅰで、輪の上での位置も変わりません。

変わるのは区切りの位置です。よくある分けかた(トニック=Ⅵ・ⅰ・Ⅲ)だと3つの弧はまるごと1つぶん回り、Cメジャーでは Ⅲm(トニック)だった Em が、Aマイナーでは ⅴ(ドミナント)になります。

いちばん素直に使えるのは、ⅰとⅢの入れ替えです。Ⅲは平行調のメジャートライアドで、ⅰと2音を共有しています。2つめが、出だしのⅰをⅢに替えた形です。

ただし、マイナーキーの役割分けには流儀の幅があります。Ⅵ(キーAmならF)をトニック側と見る立場もサブドミナント側と見る立場もあり、ひとつに決まりません。共有する音の関係だけはどちらの流儀でも変わらないので、ここではそこを頼りにします。

使うときの注意

  • 全部は置き換えない。 4つのコードを全部代理にすると、元の進行の面影が消えてただの別の進行になります。1つか2つに絞ると、元の骨格が残ったまま色だけが変わります
  • 置き換えたら鳴らして確かめる。 理屈の上で同じ役割でも、メロディやベースとの兼ね合いで合わないことがあります。代理は候補であって正解ではありません
  • Ⅶ°は終止には置かない。 ドミナントの代理ではありますが、ルートが導音なので Ⅶ°→Ⅰ は終止としては弱くなります。Ⅰ→Ⅶ°→Ⅰ のように低音をあまり動かさず挟む使い方が中心です(→ディミニッシュコード

Chordrift で試す

置き換えの候補は、探索モードのダイアトニックのチップにまとまっています。

  1. キーを選び、Ⅰ-Ⅳ-Ⅴ-Ⅰ のような進行を作って、探索モードを開きます
  2. 置き換えたいコードのカードを押します。見出しが「差し替えるコードを選ぼう」に変わり、編集が「↩ このコードを差し替え」側になっていれば準備完了です(「→ この後に挿入」だと後ろに足されます)
  3. 候補の上のチップから ダイアトニック を押すと、キー内の基本のコードだけに絞られます
  4. 置き換えたい役割のコード(Ⅰの代わりならⅥmやⅢm、Ⅳの代わりならⅡm)を鳴らして確かめ、カードの ↩ 差し替え を押します

進行は度数で持っているので、置き換えたあとにキーを変えても関係は保たれます。キーCで作ったⅥm-Ⅱm-Ⅴ-Ⅰ をキーFに移せば、Dm - Gm - C - F と同じ形が別のキーで鳴ります。